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これ「デメリット」があったら、制度としてちょっとマズいんじゃない?


ハンディキャップ
その通りなのですが、実際にてんかん・発達障害と診断を受けても「あえて障害者手帳は持たない」という方は、結構いるのです。


診断されたから、と言って絶対に取得しなければならないわけではない「障害者手帳」。

障害のある方とそのご家族を支えるために交付される手帳ですが、残念ながらこれが「デメリット」とされてしまう場合もあるのですね。



    ── 障害者手帳を持っていることで得られる「メリット」は?

    てんかんや発達障害の症状についても理解しておきたい。

    どうして手助けに使われるはずの手帳を持つことが「デメリット」になるの?

などなど、今回は特に「てんかん・発達障害」の方に的を絞っての「障害者手帳を持つこと」のメリット・デメリットについてのお話です。


ご自身の持つハンディキャップをどのように受け止め、どのように向き合い、付き合っていくか、によっても「メリット・デメリット」のとらえ方は変わってきます。


「障害者手帳の申請をするかしないか」のお悩みに、少しでも役立てましたら幸いです。



障害者手帳の種類

申請・取得することにより、様々な支援やサービスを受けられるようになる「障害者手帳」。


どのような障害をお持ちかにより、


  • 身体障害者手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 養育手帳
一般的には上記3種に分けられています。


「身体障害者手帳」は肢体・視覚・聴覚などの身体の障害、または心臓や腎臓等の機能障害をお持ちの方が対象。

「精神障害者保健福祉手帳」はすべての精神疾患を対象とし、「療育手帳」ではその対象を知的障害のある方、としています。


「てんかん・発達障害」は精神疾患として扱われているため、対象となる手帳は「精神障害者保健福祉手帳」。


合併症として知的障害のある方の場合は「療育手帳」も併せて持つことが可能です。

(※ てんかんの場合「特発性てんかん」では知的障害は認められませんが「症候性全般てんかん」では認められることがあります)

対象となるのは知能指数75または70以下の方とされています。
(※ 自治体によりこの基準が異なることも)

が、基準値以上であっても「日常生活の状態」も併せての判断です。

必ずしも、絶対の数値というわけではないのですね。

「療育手帳」が必要の場合には、お住いの自治体での確認をお願いします。


申請は任意。


どちらか一方の取得、もしくはどの手帳も持たないという選択肢もありです。

(※ 申請には初診後6か月以上たった時点での医師からの診断書が必要となります)



さて、話は若干それてしまうのですが、ここで「てんかん・発達障害」とはどのような症状に悩まされる疾患なのか、について簡単に確認していきましょう。




「てんかん」について

けいれんなどの発作を伴う、慢性的な脳の疾患です。


意識を失い突然倒れけいれんを起こす「大発作」の他、


  • 体の一部が勝手に動いてしまう発作

    → ハッキリしゃべれなくなったり、状況にそぐわない脈略のない言葉を発してしまうのも発作の症状です

  • 話している途中で、いきなりぼんやりしてしまう発作

    → この段階で意識を失っています。
    が、そのまま動き回ることも

  • 体の一部の感覚がなくなったり、しびれが出たり、気分が悪くなる、視覚や聴覚に異常が起きるなどの発作

    → ご本人以外にはわかりづらいですが、これも発作の一種

これらは大脳の神経細胞が過剰に興奮することにより引き起こされる発作です。


手術が可能なてんかんもあるのですが、基本的には薬物療法による治療法となります。

そしてこれはてんかんを「治す」のではなく「発作を抑える」ことを目的としたもの。


最終的に完治することを目指すほかの精神疾患とは少し違うのですね。




「発達障害」について

「発達障害」とは、先天性の脳機能の障害です。


  • 広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)

    → 対人関係・コミュニケーション能力の障害。
    感覚が通常では考えられないほど敏感(または鈍感)であったり、ある事柄に対する強いこだわりを持つため、柔軟な思考や対処が困難であることも

  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)

    → 授業中などに席についていられず動き回ってしまったり、静かにしていなければいけない場面で思いついたことをとにかく口に出してしまう、など衝動を抑えることができず、また忘れ物や失くしものの頻度があまりにも高い等、日常生活に著しく支障が出てくることも

  • 学習障害(LD)

    → 知的発達全般に遅れがあるわけではないのですが、症状により「目から入ってくる情報がうまく理解できない」「どうしても算数だけは理解できない」など「読む・書く・聞く・計算する・話す」の分野の1つまたは複数に対する能力に困難が見られる障害

  • 知的障害

    → コミュニケーションや学習が困難である原因が知的能力の発達の遅れからのものである障害

何度も書いてしまいますが、発達障害は先天性の脳機能障害です。

投薬や心理的なアプローチによる治療法もあるのですが、現状では根治させることはできない、とされています。


てんかん・発達障害を「精神疾患全般」を対象とする「精神障害手帳」の範囲に入れてしまうのは少し違うような気がするのですが、現在どちらにも専用の手帳はありません。


知的障害を伴う場合には「療育手帳」も交付。

そうでない場合には「精神障害者保健福祉手帳」のみの交付です。


そして「精神障害者保健福祉手帳」は、「身体障害者手帳」「療育手帳」を持っていることに比べても、受けられるサービスが限られたものとなっているのですね。


また「完治を目指す他の精神疾患」と同じ括りの手帳であるため「2年ごとの更新」も必要。


個人的には、専用の手帳がない、ということがこちらの2つの疾患に関して唯一かもしれないデメリットだと思っています。



── そこはさておき「てんかん・発達障害」を持つ方が「手帳を持っていなかった場合」をまずは考えてみましょう。


例えば授業中などに席についていられない注意欠陥・多動性障害をお持ちのお子さま。

またはほかの教科は問題なくこなせるのに、ある一つの教科だけどうしても理解できない学習障害のあるお子さまなどの場合です。


「落ち着きがない子」「苦手な教科についての努力をしない子」のように思われ、脳の機能に障害があることが原因であるにも関わらず叱られたり問題児扱いされてしまう。


これは発達障害を持つお子さまにとって非常にストレスとなります。

お子さま自身も、なぜ自分は人と考え方や感じ方が違うのか、なぜ周りの人は誰も自分のことを理解してくれないのか、と悩むことにも。


しかも、先ほど書きました通り、完全に治るということはないのです。


このままではストレスは溜まる一方。

やる気もなくなり、自分に対し自信も持てなくなってきてしまいます。


障害を持っていることを周囲の人たちに知ってもらえば、自分自身とその障害についての理解も得られるようになります。

そのために障害者手帳を取得。


また、てんかんをお持ちの方の場合。

てんかんには発作が伴いますが、常に表れている症状ではありません。


ですのでてんかんであることを会社などに伝えず働くことも可能です。

が、仕事の最中に急にぼんやりしてしまったり(発作により意識を失っている状態です)、視覚や聴覚に異常が生じる、といったことも起こり得ます。


発作が起き、そのことが原因で「解雇」ということもない話ではありません。
(実際にもよく耳にする話です)


初めから障害のあることを伝えたうえで働いている場合には、通院等のためのお休みを取ることもでき、他にも会社側は何らかの配慮をしてくれるはず。

ムリなく仕事をしていくこともできます。


お子さまの場合も同じです。

発作が起こることにより、日常生活がままならなくなってしまう。


手帳を持つことで受けられる様々な支援サービスは金銭的にも精神的にも、ご本人とご家族を支えてくれます。


だから絶対に持つべきだ、というわけではないのですが、実際メリットはたくさんあるのです。


続いて手帳を持つことで受けられる、様々なサービスについて少し具体的に見ていきましょう。




受けることのできる様々なサービス

    税金の控除・減免

  • 所得税、住民税の控除
  • 相続税の控除
  • 贈与税の非課税
    (手帳の等級により金額等は変化します)

  • 公共料金の割引

  • NTT受信料の減免
  • 水道料金の割引(地域によって実施)
  • 携帯料金の割引(事業所より実施)
  • 公共施設の入場料の割引(地域により実施)
  • 心身障害者医療費助成

  • その他の支援

  • 福祉手当
  • 通所交通費の助成 
  • 公営住宅への優先的入居権
  • 自立支援医療制度により、通院治療費の自己負担が1割に
  • 障害者職場適応訓練の実施
  • 精神保健福祉士によるハローワークでの無料カウンセリング(精神障害者就職サポート)
  • 障害者枠での求人  などなど

    (※ 自治体によっては実施していないサービスもあり)

これらの支援は「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」ともに受けることができるのですが、前述の通り、どちらの手帳を取得しているかにより受けることのできる福祉サービスに違いが出てきます。


例えば公立の保育園などでは療育手帳を持っていることで優先順位が高まりますが「精神障害者保健福祉手帳」だけではこのような優先権は通常得られません。


また特別支援学校への入学にも取得していることが条件となる場合もあるのですね(療育手帳)。


さらには交通機関の料金の割引などの充実も療育手帳の特徴。

精神障害者保健福祉手帳だけでは得られないサービスとなっています。


受けることのできる支援等に制限がある、というのは、精神障害者保健福祉手帳の少し残念な部分ではあります。

が、デメリットというほどではない。


十分に「援助措置」として障害者手帳交付のメリットを受けることはできています。


では、なぜ「あえて手帳は持たない」の選択をする方もいるのか。


続いて「デメリット」とされる部分を見ていきましょう。




「障害者手帳」のデメリットって何?

非常に書きにくいのですがデメリットは「恥ずかしいという気持ち」です。


手帳を取得することにより、


「自分は障害者なんだ」

「うちの子はついに障害者になってしまった」


のように感じ、落ち込んでしまう。

本当は手帳を持ったから、ではないはずなのですが、このような気持ちから申請をためらってしまう方も多いのです。


また、3つの種類のある障害手帳ですが身体に障害のある方の持つ手帳には「身体障害者手帳」とそのまま表記されているのに対し「精神障害者保健福祉手帳」では「障害者手帳」とだけしか記されていません。

(※「療育手帳」は都道府県によって呼び方が変わるため「みどりの手帳」「愛の手帳」などと呼ばれることもあります)


手帳を見ただけでは、その障害が精神疾患によるものだということはわからないようになっているのですね。


つまり、そうした配慮が必要になるほど、精神障害者に対する偏見や差別はまだまだ強いということなのです。


「てんかん・発達障害」のある方の場合、知的障害もあれば「療育手帳」の交付もありますが、なければ「精神障害者保健福祉手帳」となります。


症状が重ければ、手帳を持つことによるメリットは「恥ずかしい」という気持ちを上回るのではないかと思います。


申請・取得、そして提示することに初めは勇気がいるかもしれませんが、制度としては非常に優秀なものだからです。


ですが「療育手帳」に比べ、受けることのできる支援が制限されているのが「精神障害者保健福祉手帳」。

そのうえ上記の通り偏見や差別により実際にいやな思いをしてしまう可能性も高い。


そしててんかん・発達障害をお持ちの方の多くが対象となるのは「精神障害者保健福祉手帳」のみなのです。


だから「あえて手帳を持たない」とする方も多い。


ただこれを「手帳を持つデメリット」とするのは何ともおかしな話です。

そのように思わせてしまう現状こそが実は完全に「デメリット」。

手帳を持ったことで偏見や差別に見舞われるのではなく、そもそも社会の一部分に偏った思考がはびこっているだけ。


が、こうした理由から申請しない方たちが多いのも事実なのです。


ちなみに、ですが「精神障害者保健福祉手帳」の対象疾患は、


「何らかの精神疾患(てんかん・発達障害を含む)」


とされています。

括弧(かっこ)つきなのですね。


てんかんの基本的な治療法である薬物治療の目的は完全に治すことではなく、あくまで症状(発作)を抑えること。

症状が出なくなったから(投薬によって)といって飲むのをやめてしまうと1~2年後に再び発作が起こる、というケースが多いため、薬を手放せないのです。

(※ 小児てんかんの場合には一定期間の薬物治療ののちに、お薬をやめても再発しない治りやすいケースもあります)


発達障害も一過性の疾患ではありません。


他の精神疾患の方々とは、ここもかなり違うのです。


一生付き合っていくことになる疾患であるからこそ必要になってくる支援なのですが、でも専用の手帳がない。

先ほども書きましたが、ここだけは手帳制度側のデメリットとして、本当に何とかならないものなのか、と思ってしまいます。




障害者手帳を持つ「メリット・デメリット」のまとめ

最も大きなデメリットはメンタル的なもの。

手帳を持つことにより、


「自分は障害者なんだ」


と傷ついたり、恥ずかしいことのように感じてしまう。


また、差別や偏見は、する方が全面的に悪いのですが、傷つくのは一方的に障害を持つ方サイド。

こうしたイヤな思いをする可能性が否定できないということも、非常に残念なデメリットとなっています。


また「障害者枠」での就職は可能ですが、就きたい仕事での募集がない場合もあります。

さらに障害者枠ではなく、一般的な仕事に就きたい場合には障害者手帳は何のメリットにもなりません。


ですが、働きたくても障害があるため就職が難しい、といった場合には「障害者枠」は社会参加に向けての一歩を踏み出すチャンスになります。


一定規模以上の企業では障害者雇用制度により、全体の〇%は障害者を雇用すること、と定められているのですね。

2018年4月1日にもその率は引き上げられたのですが、21年にはまたさらに引き上げられることが決定しています。


メリットもデメリットもあるのです。


メリットを上回るデメリットを感じる場合には障害者手帳の申請を無理にする必要はないかと思います。


持つことのメリット・デメリットは、ご自身の持つハンディキャップへの受け止め方、向き合い方によっても変わってきます。


だから申請が任意なのです。




終わりに……

通院や通所にもお金はかかりますし、会社など休む必要も出てきます。

一見どこにも障害がないようにも見えたとしても、ご本人は苦しんでいるのです。


個人的にはぜひ手帳を役立てていただきたいと思っているのですが、理解してもらうどころか偏見や差別の対象になってしまうかも、と考えますと複雑な気分になります……


実際にはご自分から言い出さない限り、手帳を持っていることが周りに漏れることはありません。

必要なくなったら返すこともできるのですね。


職場などにはあえて取得していることを言わず、税金の控除や(働いている場合には会社を通さずご自身で確定申告を行うことになります)、施設の利用料金の割引などのメリット部分だけ受け取ることもできます。


もちろん、障害を受け止め、周囲の方からの理解を得、社会参加の足掛かりとして手帳を利用するのもあり。


全く逆の利用の仕方ですが、ご本人やご家族にとって役に立つなら、どのように使ってもいいのです。


とにかく障害によるストレスを少しでも減らす。

そのために手帳を利用したサービス等が必要なら申請。

持つことがストレスになるなら、申請しない。


制度にはデメリットといえるものは(専用の手帳がないことを除けば)ありません。

最も大きなデメリットになるのはご自身とご家族の心理的なものです。


結論がハッキリせず、なんとも締まらない文章となってしまいましたが、手帳を持つにせよ持たないにせよ、障害を持つ皆さまが少しでも過ごしやすい毎日を送ることができれば、と本当に願っております。


今回も最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。

皆さまの「障害者手帳」へのモヤモヤも、多少なりとも薄れていたらうれしいのですが……


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