日本には豊かな四季があり、その季語としても使われる『霰』や『霙』。また近年でも、『雹害』などとしてニュースを賑わす『雹』。
……あの、雪っぽいヤツのことだよね?
はい、そうです!
ですが、その見分け方、ご存知ですか?
また、季語にもなってしまう何とも風流な感の漂うこの3つの言葉ですが、英語圏ではなんと表現されているのでしょう?
気になってきました。
それぞれの特徴や違いをご解説いたします。
空を見上げ、ふっ、と目を細めつつ「あぁ、霰かぁ……珍しいな」などのつぶやきに、ぜひお役立てください!
霰(あられ) 雹(ひょう) 霙(みぞれ)の違いを超簡単に
『霰』と『雹』は空から降る氷の粒です。それぞれ「直径5ミリ未満」と「5ミリ以上」という違いがあります。それに対し『霙』は「雨と雪が混じって降ってくるもの」。
つまり『霰と雹』は氷の仲間、『霙』だけが雪の仲間となります。
どちらにしても冷たそうなこの3つ。
ではそれぞれの違いを、少し詳しく見ていってみましょう。
霰(あられ)とは?
石山の 石にたばしるあられかな by 芭蕉などと詠まれている『霰』。
水蒸気が氷の粒となり、降ってくるもののことです。
主に初夏に降ることの多い霰ですが、これには「積乱雲(カミナリ雲)」が関係しています。
積乱雲の中では、強い風が上に向かって吹いています(上昇気流)。
そこで生まれた水滴は、強い風に煽られるため、なかなか落ちることができず、雲の中を行ったり来たりすることとなります。
そして行ったり来たりを繰り返すうちに、上空の冷たい空気に冷やされつつ、積乱雲の中の他の水滴ともくっつき、徐々に大きくなっていきます。
ついには大きな氷の塊となり、さすがにその重みに耐えられなくなった上昇気流は、大きくなった氷の塊を地上に落とします。
こうして『霰』は誕生するわけです。
(積乱雲の中の)水滴 → 小さな氷の塊 → (周りの水滴を巻き込んで)大きな氷の塊 → 重みに上昇気流、限界 → 落下 → 地上に『霰』が降る
といった仕組みです。ですから積乱雲の多く発生する夏場に『霰』は降りやすくなる、というわけなのです。
もちろん、地上に落ちるまでにとけてしまうこともあります。
ご想像のとおり! その霰はただの雨として降ることとなるのです。
けれど『季語』としては霰は冬のものとなります。ですから芭蕉さんは冬の句、として前述のものを詠んでいます。
さて、芭蕉さんはそのように詠んだ『霰』ですが、英語では「hail」や「hailstone」と呼ばれています。
「霰が降っている」 = It is hailling です。
余談ですが、お菓子の「あられ」。こちらの方は「very small rice biscuits (cracker)」、途端に可愛らしくなりましたね!
雹(ひょう)とは
鳥取県米子でひょう降る- 2012.5.12魚降りし 市の噂や夏の雹 by 内藤鳴雪
『雹』を季語に選んだ作者の名前も「鳴雪」さんと勇ましいです。けれど勇ましさの中にも『雪』の文字。繊細さも感じられますね。
さて、5ミリ以上の大きさとなり降ってくる『雹』。
こちらも『霰』と同じ仕組みで作られます。
なぜ大きさに違いが出てくるか、といいますと、これはその積乱雲の『成長度』によるもの、となります。
強く大きく成長した積乱雲の中の上昇気流は大変激しく、氷の塊の重さに対する限界値も、また大きくなっています。
5ミリ程度の『霰』ごときの重さには耐えられてしまうのですね。氷の塊もさらに大きくなっていきます。
けれど、やっぱり重力にはいずれ屈しないわけにはいきません。
成長した積乱雲の、激しい上昇気流をもってしても支えきれない大きさ、重さとなったものが『雹』です。
地上に降ってくるとその大きさは本当に危険なので、積乱雲も意地を張らずに適当なところで落として欲しいところです
が、なんとこの『雹』、1917年6月に、埼玉県で27.6センチにまで成長し降ってきたものが記録されています。
その他にも、1933年には兵庫県で10人の死亡、2000年にも100人以上が怪我をする等、甚大な被害を及ぼしています。
遥か彼方の上空から少なくとも5ミリ以上の物が落下してくる、と考えると、本当に怖いです。
ちなみに、直径5ミリ前後の微妙な大きさのものが降ってきた場合、それを「以下」と見做し『霰』とするか「以上」の『雹』にするかの判断は気象庁に委ねられています。
気象庁頼みの大きさのものも存在する『雹』ですが、そのせいか英語でもやはり『霰』と同じ「hail」「hailstone」で表されます。
「it hails」 = 雹が降る
できれば5ミリギリギリくらいの大きさのものでお願いしたいですね!
霙(みぞれ)とは
淋しさの 底抜けて降るみぞれかな by 内藤丈草芭蕉に師事した丈草さんにこんな詩を詠ませた『霙』。
季語としては冬。「氷雨」などとも呼ばれ、ほんのり哀愁が漂う語感でもあります。
こちらは氷の塊ではなく「雪が空中でとけかかって雨と混じりながら」降っているもののことです。
雪と混じりながら、ということでお分かりかと思いますが、主に降りやすいのは、冬や春の初めごろ、雪が降り始めたり、もうそろそろ降らなくなるころとなります。
形状も『霰』『雹』の氷とは異なり雪に近く、実際、扱いとしても「雪」の括りとなっています。
ですので、英語表記もついに「hail」ではなく「sleet」へと変化します。
「激しい霙」 = a sleet storm
嵐(storm)の文字が入っているのに「とけかかった雪のようなもの」と思うと、まったく激しさを感じませんがいかがでしょう。
完全な蛇足ですが「みぞれ煮」という調理用語があります。大根おろしを使った料理ですね。
あれは、大根おろしの雪のような見た目から付けられた名称。
ちなみに「牛肉の時雨(しぐれ)煮」というのは炒めた牛肉を甘辛く煮た料理ですが、そこに大根おろしがプラスされると「牛肉のみぞれ煮」となります。
気象用語としての「時雨」は、秋の終わりころから冬の初めにかけて、通り雨のようにパラパラと降る雨のことを指します。
時雨が季節を経ていつか霙へと変わっていくように、大根おろしを加え「みぞれ煮」になる料理、ということで、もしかしたら「時雨煮」は後付けされた名前だったりして・・・
などと勝手に思ってしまいました(これはほぼ妄想なので、参考にしないでくださいね)。
霰(あられ) 雹(ひょう) 霙(みぞれ)の違いを詳しく解説
なるほど、「雪じゃないけど、雪っぽいもの」には違いありませんね!けれど多少はそれぞれのイメージが別々に浮かんできたでしょうか?
では特徴等、3つを比較しながら、もう少し具体的に見ていきたいと思います。
どんなもの?
- 霰(あられ): 空から降る氷の粒 → 直径5ミリ未満 = 冬の季語 =hail hailstone
- 雹(ひょう): 空から降る氷の粒 → 直径5ミリ以上 = 夏の季語 =hail hailstone
・霙(みぞれ): 雨と雪が混じって空から降ってくるもの → カテゴリは『雪』(その年初めて降ったのが霙だとしても、「初みぞれ」とはなりません。「初雪」として扱われます) = 冬の季語 = sleet
よく降るのは?
- 霰: 特に初夏
- 雹: 同じく初夏
・霙: 冬の初め、春の初め
➡ 雪が降り始めるころ、雪がそろそろ降らなくなる時期
地上への登場のしかた
・霰: 積乱雲の中で生まれた水滴が、周りの水滴も加わり徐々に大きく氷の塊として変化していき、その重みに積乱雲内で上向きに吹いている風が耐えられなくなり、地上へ落下。
・雹: 大きく発達した積乱雲内の上昇気流が「霰」の大きさを超えた氷の塊の重みにかなり耐えるも、やはり落下。頑張ってしまった分だけ、氷の塊は大きくなって地上に登場……
・霙: 雨から雪に変わる、または雪が雨に変わっていく頃、溶け合いながら登場。
・雹: 大きく発達した積乱雲内の上昇気流が「霰」の大きさを超えた氷の塊の重みにかなり耐えるも、やはり落下。頑張ってしまった分だけ、氷の塊は大きくなって地上に登場……
・霙: 雨から雪に変わる、または雪が雨に変わっていく頃、溶け合いながら登場。
漢字で書くもの? ひらがなでもいいの?
・霰、雹、霙、共に常用漢字ではありません。ですから新聞などでは「ひらがな表記」。読めたけど書けない、という方、ご安心ください。
書けたらカッコいいかもしれませんが、書けなくても問題のない文字です!
危険!!!
雹 > 霰 > 霙 です。雹は本当に危険! 傘では防ぎきれない場合もあるので、庇や屋根のあるところ、または建物内に早めに入って安全を確保してくださいね!
……霙は、寒いですが、あまり危険ではありません。
終わりに…
『霰』と『雹』、英語では同じ文字で表されるものを、それぞれの種類として見分け、『霙』を含め、季語としても詠まれる。さすが季節感を大事にする日本! です。
また常用漢字ではないとはいえ、漢字の見た目にも優美なものを感じます。
『雹』にはできれば降ってもらいたくない気がしますが、句や歌に詠まれる昔から存在していた、もはや日本の風物と言えるものなのかもしれません。
「あ、なんか降ってきた!」に、それぞれの名称を当てはめて(雹や霰の場合は逃げつつ)、空を見上げていただけたら、と思います。
いかがでしたでしょう。
多少のお役には立てたでしょうか?