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2003(平成15)年の導入スタート当初から、何かと物議を醸(かも)している「指定管理者制度」。


図書館
メリットがあればデメリットもあるのが世の中の常識(だと思う)ですが、こちらの制度に関しては、



そもそも、誰にとっての「メリット・デメリット」?



によっても、だいぶ話が変わってくるのではないでしょうか。


特に文教施設(の中でも社会教育施設でもある)「図書館(博物館・美術館等も)」への導入ですね。

これは、結構な難題。



── ごめん、ちょっと待って!

「指定管理者制度」って、何?

いや、知らないわけじゃないんだけど、知ってる、ってわけでもないっていうか……




あ……了解です!



それでは、


「指定管理者制度」って何? を含めた、その「メリット・デメリット」、そして問題の「図書館」ではどのような状況になっているのか?

などなどについて、解説させていただきます。



皆さまのモヤモヤが薄れますよう、少しでもそのお手伝いとなれましたら幸いです。



「指定管理者制度」ってどんな制度? 導入までの簡単な流れはこちら

冒頭で書きました通り「指定管理者制度」の導入が始まったのは2003年のこと。


簡単に言いますと、これは、



「公の施設の管理運営に、民間の企業(株式会社など)、NPO法人も参入できるようになりましたよ」



という制度。


サラッと書きましたが「公の施設」の管理運営を株式会社が行う、というのは、結構なビックリポイントなのです。



2003年の「地方自治法改正」以前は、公の施設の管理運営を任されていたのは、


「公的団体」
「公共的団体」
「地方公共団体が出資している団体」


に限られていたのですね。



さて、ここで「公の施設」です。


区民(市民)会館や、区や市の体育施設、児童館や老人福祉センター、区(市)営公園、図書館や美術館・博物館などなど、


  • 地域の住民の福祉の増進を目的とした施設
  • そのためのサービスを提供するための、住民が直接利用する施設

この2つを大きな要素として設置されているもののことを指しています。
(※ ですので、これら条件を満たしていないものについては「公営(私営ではない、研究所や庁舎など公の機関)」であっても「公の施設」には当たりません)。


本来これらの管理運営は地方公共団体(自治体)が直接行うべきものなのですね。

地方公共団体が、地域住民に対しサービスを提供する場。

問題の「図書館」も、設置しているのは各自治体です。



ですが、この「公の施設」も時代を経るごとに、徐々に増えていきます(国も成長しているから)。


また、それぞれの地域ごとに少しずつやり方など、微妙な部分にズレ、というと言葉は悪いですが、それぞれの個性や特色などによる違いが生じてくる。


さらに「公の」というからには、そこでの平等なサービス、というのは条例(地方公共団体が制定する法)として保障されるもの。


果たしてこれは「公の施設」に値するか?


なども判断していく必要があるのですが、その境目もだんだん曖昧なものになってきます。

地方自治法だけでなく、例えば「図書館」なら「図書館法」なども絡んでくるため、もう、もの凄くややこしくなるのです。


そして地方公共団体の財政的な圧迫もそこに加わり……


前述の通り「公的団体」「公共的団体」「地方公共団体の出資している団体」に管理運営を手伝ってもらおう、ということになるのですね。


これが「指定管理者制度」の前身である「管理委託制度」です。


こちらも途中で一度改正があり、委託先の範囲が拡大されています。


「指定管理者制度」への流れが若干わかりやすくなるかと思いますので、軽く「管理委任制度」についても見ていきましょう。




「管理委託制度」

「公の施設」が行っているサービスとは、営利を目的としない公共サービス。

加えて、


  • 住民に対し平等なサービス
  • 住民がそのサービスを望むときには、いつでも受けることのできる安定性が保たれたサービスの提供
これらも重要になってきます。

そして、そのサービスの向上も常に視野に入れていかなければダメ。


多くの住民が喜んでくれるサービスを提供できるようにすることが、その施設の目的、となるわけです。


ところが、地方公共団体だけですべての公の施設を管理していくのは、段々と厳しくなってきます。

前述の通り、その数も増え、地域ごとの特色などによる違い、そしてついでに、経費も削減しなければならない状況となる。


地方公共団体の職員さんは「地方公務員」です。

地方公務員法などにより、ある程度の縛りがあるため、徐々に増えていく公の施設それぞれのニーズに合った柔軟な対応、人材の確保なども難しい。

金銭的な問題にも対しても、柔軟な対処ができない。


そうなってきますと、目的のひとつである「住民へ提供するサービスの向上」を達成させることもままならなくなってしまいます。


ここで、白羽の矢が立てられたのが、


「公的団体」
「公共的団体」



こちらの2つだったのですね。

属す職員の方は、地方公務員ではない(地方公務員法などで縛られない)ので、


「柔軟な人材確保」
「柔軟な会計処理」



が可能。

そこで、


「住民へのサービスの向上」
「経済効果」



なども見込める、と判断された場合に限りですが、地方公共団体は「公共団体」「公共的団体」に管理運営を委託。


これが1963(昭和38)年から続く「管理委託制度」です。


「公の施設」の管理運営

  • 本来は「地方公共団体」が直営
    →「公的団体」「公共的団体」に委託もOK

この段階では、まだ「営利を目的としない」という「公の施設」の行うサービスの体裁は保たれています。


ところが1991(平成3)年に、この「管理委任制度の改正」があり、若干の修正が加えられることになるのです。


  • 管理委託者の範囲を広げる
  • 管理委託者の権限を広げる

1つ目の「管理委託者」というのは「公共団体」「公共的団体」のこと。

2つ目で言っているのは「委託できる団体をこの限りではなくし、さらにはその新たに加わった団体を含め、権限も拡大する」です。


具体的には、以下の通り。


管理委託者の範囲

  • 「公的団体」
  • 「公共的団体」
  • 「新たに加わった団体」
    → 地方公共団体が2分の1以上の出資 / 地方公共団体から主要な職員を派遣

この「新たに加わった団体」は、当時増えてきた、


「営利団体でありながら、公共性を保ち、地域にとって重要な役割を期待されている団体」


とのこと。


ただし、単なる営利団体ではなく、その行為に「公共性」があり、「営利性」とうまい具合に共存しているような団体。

しかも上記の通り、地方公共団体が資金の2分の1以上を出資し、なおかつ主要職員まで送り込んでいるのですね。

地方公共団体の息がかかっている団体ではあるのです。


なぜ、範囲を広げる必要があったのか、というのは、……まあ、そういうことです。

委託者の範囲を広げないと、もはや「住民へのサービス向上」「経済効果」が期待できなくなってきたのですね。



そして、もう一つの「権限」。


公共性も持っている、とはいえ、相手は営利団体です。

営利団体は利潤を追求していくことこそが目的。


ですので、施設の管理をしたことで得られる使用料(施設の利用料など)は管理経費、とされ、


「管理を委託された(管理受託者)のものとして良し」


という「利用料金制」が採用されることとなったのです。



初めから地方公共団体の直営であれば、これは全く必要のないもの。

また「公共的 / 公的団体」であっても必要なし。


新たに営利団体が加わったことで生まれたのが、この受託者の「権限」です。


  • 利用者が増えれば「利用料」も増え、管理受託者の懐も潤う。

    → そのためにも、利用者に満足してもらえるサービス向上を目指し、創意工夫を凝らしていく。

    → 受託者のやる気も喚起(インセンティブの向上)

理にはかなっています。

「公の施設」の姿も、見えないところでかなり変貌を遂げてはいますが……



そしてついに2003年に「指定管理者制度」の導入。


これも、1993年の「管理者委託制度の改正」と大まかな部分は同じです。


「地方公共団体が出資 & 主要職員派遣」の団体だけでなく、それ


「民間企業(株式会社など)」
「NPO法人」



まで加わることになります。


もう「出資2分の1」なども関係なし。

参入の意思があれば、公募に対し、手を挙げればいいだけ。


ただし、行うサービスは「公共性のある公共サービス」であることは変わりません。




「管理委託制度」から「指定管理者制度」へ

住民の行政サービスに対するニーズはますます多様化。

地方公共団体の財政難もさらに深刻化。


そこで、



    「『公共サービス』って、ホントに行政じゃないとできないのかな? だって最近は、市営とか区営じゃない、民間のスポーツジムとかあるじゃん」

    「介護保険制度できてから、民間の介護施設とか介護系の仕事ってすごい増えたよね」

    「福祉施設だけじゃないって。美術館とかもあるんだぜ、民間の」

    「マジか~。ってことはさ……」


    『公共サービスって、別に行政じゃなくてもイケるんじゃない?』

    『ってことなら、株式会社が完璧な営利団体だからダメ、って理由もなくならない?』

のような話し合いが、もっと賢そうな会話として行われ、さらに、



    「私、前々から思っていたのですが、地方公共団体って運用キツすぎませんか?」

    「あ、それ、オレも思ってた! ここらで一つ、制度見直しってどうよ?」

    「小泉さんも(小泉内閣がスタートした時期でした)規制緩和って言っていましたもんね」

    (※「規制緩和」: 政府の規模を縮小。参入への規制を緩くする、もしくはなくすことで、自由競争による経済効果やサービスの向上を図るもの。弊害も多々あり)

怒られそうな気がしてきましたが、このような流れを経て、


「民間企業」
「NPO法人」



の「公の施設の管理運営」への参入も認められることになったのです。




さて、ここから色んな意味で色々な部分が加速していきます。

「何かが吹っ切れちゃった?」と感じてしまうのは、あくまで個人的な感想ですが、まず前述の通り、


  • 管理主体制度(管理委託者の範囲が決められていた)の撤廃

個人でなければ、どのような法人でも参入可能になりました。

「管理委託制度」では、営利団体とはいえ、少なくとも「地方公共団体」との繋がりがあるところが「公の施設」を管理していましたが、これを株式会社に対しても通すのはムリ。

(※ 株式会社に対し「2分の1以上の出資」ができるくらいなら「財政難」とは絶対に言えません)


そして、ここまで範囲を広げたのなら、住民ニーズにも迅速な対応を求めたくなるわけです。

それに必要となってくるのは、


「地方公共団体の代わりをまるっとすべて引き受けてもらえるような権限を持ってもらうこと」


「管理委託制度」はあくまで「地方公共団体」がすべき法律行為などを、契約関係にある管理受託者にお願いして、やってもらうこと。

「委託」です。


すべてを受託者の権限で行うことはできないのですね。

契約で「使用許可権」と呼ばれる権限までを委任することはできない。

任せられるのは、あくまでその「処理」です。


では、法的な「許可権限」部分までを担ってもらうにはどうすればいいのか?


「指定」という行政処分を行えばいいのです。

そうすることで「処理」ではなく「業務自体」「地方公共団体自体」の代わりとして管理運営をお任せすることができる。


ですので「指定管理者制度」とは、


「民間企業やNPO法人も参入させるため」


ではなく、



「より多くの権限を管理委託者に持たせる」



そのために新たに作られたものなのですね。


株式会社やNPO法人を委託者とすることは、それまでの「管理委託制度」のままでも問題なかった。

ただし、「使用許可権限」を付与するためには「指定」という行政処分が必要だったわけです。


だから、


──「指定管理者」制度



指定を受けた管理者は「使用許可」の行為OK。

「まるっと」の成立です。


ですが、さすがにこのまま丸投げ、というわけではなく、


  • 最終的な管理者を決めるには議会での議決が必要(選考方法等は自治体が決められます)
  • 必要事項は条例で定める
  • 定期的に更新手続きを行う(指定管理者でいられる期間が設定されている)
  • 毎年、事業報告書を提出

などといったことは厳しく決められています。

地方公共団体からの資金や職員の派遣といった物理的な措置ではなく、「指示する権利はこちらが握っています」をはっきりさせる心理的な措置がとられているのですね。



── と、このように書きますと「指定管理者制度」にあまりいいイメージを持たれないかと思います。

流れ的にはこのような感じなのですが、でも……ちょっと悪く書きすぎです(書いたのは私ですが)。



どうしても「株式会社」から受ける印象もあり、



「公の施設がお金儲け? この制度は、経費の削減を解消するためだけに生まれたものなのか!? オイ、ちゃんとオレは税金払ってるぞ!」



的な負の感情が喚起されてしまいやすいのですが「公の施設」とは、地域住民のために設置されているものです。

お金儲けより、私たちを喜ばせてくれるためのもの。

ここは、変わらないのですね。


「民間企業」「NPO法人」の参入も可能になりましたが、直営のところもあります。

なぜなら、その方が施設としての本分を果たせる、と判断されたからです。

「指定管理者制度」を取り入れた自治体も、その方が地域住民にとって、よりメリットがある、と判断したから。


制度が導入された背景には、地方公共団体の財政難など、ネガティブな要素も深刻に関わっていますが、根底にあるのは「公の施設」が初めに掲げた、


  • 地域の住民の福祉の増進を目的とした施設
  • そのためのサービスを提供するための、住民が直接利用する施設

ここも変わっていません。

そのための手段が若干を通り越し、ビックリするほど変わっただけです。


「制度」は、既に存在しています。

ですが、参入は強制ではありません。


参入にメリットがあると判断した企業等が、手を挙げ、さらに「サービス向上」に一躍買ってくれそうな相手を地方公共団体が選定。


一度「指定管理者制度」を導入後、再び直営に戻すことも可能なのです。



── さてさて、そろそろ本題に行きましょう。

文教施設である「図書館」です。


「指定管理者制度」を導入するかしないか。

導入した「図書館」はどのようなサービス向上を果たしているのか。

利用者はそれをどのように感じているのか。


などなどについて見ていってみましょう。




指定管理者制度と「図書館」

「図書館」と一言でいっても、地域や状況、環境等の違いがあるため、一括りとして考える、というのはどうかと思うので、


「『指定管理者制度』を導入するメリット・デメリットと考えられること」


ですね。


まずは実際にあった出来事から。

これ、結構有名な話です。

以下に、軽く概要を書いていきます。



「指定管理者制度」を導入した佐賀県武雄市の市立図書館が2013年にリニューアルオープン。

管理者となったのは「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」を経営母体に持つ「TUTAYA」です。

これが、もの凄い盛り上がりを見せます。


  • Tポイントカードを「図書館利用カード」とし、貸出しごとに1ポイントがつくサービス提供(これは通常のポイントと同様に使えます)
  • 開館時間を延長
  • スタバの併設
  • その地域に住んでいる人たちだけでなく、日本に住んでいるすべての人を貸出し対象者に

さすがTSUTAYA。

まさに「指定管理者制度」の狙い通り。

民間企業だからこそ、そのノウハウを活かし、発想を従来のものからガラリと変えることができたのですね。


このことにより、実際「指定管理者制度」を導入し始めた図書館も増えました。

TSUTAYAの評判もうなぎ上り。

最高の宣伝効果を得ることができた。


どちらもハッピーです。


このように、企業が力を持っていれば、


  • 「本の貸し出しは無料(公共サービスの部分は当然従来通り)」

    →「でも、併設の施設で利潤を確保」

    →「その利益で、さらなるサービス向上を目指す」

    →「利用者が増え、TSUTAYAさらに儲かる」

    →「任せた地方公共団体も大喜び」

の図式ができあがっていくのですが、ここでTSUTAYAはちょっとした問題を起こしてしまいます。


  • 誰も読まないような古い実用書を新規で図書館に購入
  • 佐賀にまるで関係ない地域の古い情報誌も購入

このようなことは今の時代、あっという間に拡散されてしまいます。

武雄図書館の件でも火付け役となったのはSNSでした。


そして、その出所が、


「CCCの関連企業である中古書販売業者『ネット・オフ』」


であることが判明。

そうなると、今までさんざん持ち上げていたメディアが、見事に掌を返す。



──「TSUTAYAの在庫処分」



上手いことを言っています……



「勝てば官軍」という言葉がありますが、TSUTAYAの場合も初めはこれ。
(※「勝てば官軍(負ければ賊軍)」: 勝ったもン勝ち。結局は勝った方が正義になる、の意味)


民間企業が図書館を運営していくことへの懸念を、結果を出すことでねじ伏せたわけです。

そのまま何も問題がなければ、


「やっぱり指定管理者制度は、図書館にとっても期待できる制度だ」


と、なっていたかもしれません。

が「正義は勝つ」の「正義ではない方」なことをしてしまったため、


「やっぱり営利団体に公共サービスは……」


というマイナスイメージを植え付ける結果が生まれてしまったのです。


ですが、これはあくまで問題行為をしてしまったから。

本来ならTSUTAYAが実施した「カフェの併設」や「開館時間の延長」などは利用者にとってメリットでしかありません。

ただし、どの企業もこれほどの成果が上げられるわけではない。



TSUTAYAの例は極端ですが、実際に「日本図書館協会」も、


「指定管理者制度の導入は、基本的に馴染まないと考える」


としています。
(※「日本図書館協会」: 日本の図書館の代表。図書館の成長・発展を目指し活動している全国組織)



ではなぜ「馴染まない」としているのか?



図書館サイド(というか協会は)が考える「指定管理者制度」のデメリットがこちら。

結構納得させられます。




「図書館」にとってのデメリット

まずは「図書館法」を見てみましょう。


    「図書館法第2条」

    図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査、研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設

「図書館」という施設は、このような目的・役割を担うもの、として定められているのですね。



「指定管理者制度」では、先ほど書きました通り、その期間が決められています(大体3年から5年)。

一度管理者として指定されても、その期間が過ぎれば、また選定が行われ、必ずしも来期もその図書館に携われるわけではありません。


その上で、


「継続的・安定的なサービスの維持・向上」


ここも図書館では大事なこと。


ですが5年は短い。

腰を据えてじっくり、住民ニーズに応えられるサービスを計画することができません。


そもそも長期雇用ではない職員さんの「雇用状況」が不安定。


実際には1度目の期間が終わっても、そのまま2期目も継続、というパターンになることが多いのですが、それは初めから約束されていることではないのです。


普通に考えても「ここが自分の職場だ」と思って働くのと「ここはとりあえず5年間働く場所だ」では大違い。


また「レファレンスサービス」といって、司書(図書館で働く専門家)の方から必要な資料についてなどの助言を受けることができるのも図書館の魅力。

ですが、短期間ではこの「司書」が育つ暇もないのです。

業務経験を積み、研修等を行っていくには期間が短すぎるのですね。

(※ 残念ながら、日本では、司書を絶対に置かなくてはいけない、とは義務化されていません。ですので司書を置かない図書館もあるのですが……)


さらには、


「図書館の本は無料で貸し出し」
「入館料などはとらない」


(※「いかなる対価も徴収してはならない」図書館法第17条による)


美術館や博物館などとも少し違うのです。


ならば先ほどのTSUTAYAのようにカフェの併設やポイント付与などで独自性を持たせればいいのでは? と思うかもしれませんが、どの企業もそれができるわけではない。

(※ 管理者となった企業からも「図書館運営は、何の旨味もない」との意見が挙がるほど)


ということは、指定管理者側の収益を上げる手段もない……


ではどうすればいいのか?


人件費を削るしかないのです。

カウンターの職員の人数を減らす、専門職である司書を雇わずその分の出費を抑える、などなど。


その上で「サービスの向上」として開館時間の延長、開館日数の増加。


……もう、ブラック……
利用者が少ない方がまだマシ……



そして、これら以外に独自性のあるサービスを提供しようにも、当然「経費のかからない」が前提のものに限られることになるのです。


これでは利用者が満足するサービスは望めません。

「指定管理者」に管理運営を委任している地方自治体にとっても、何のメリットにもならない。


「営利と公共性は同居できない」


だから、


「指定管理者制度の導入は基本的に図書館には馴染まない」


としているのですね。



図書館の中には、こちらの制度を導入しているところもあります(全体の2割に満たない程度)。

管理者のほとんどは民間企業。

そしてその多くが書籍流通系です。

まあ、図書館なのでそうなります。


先ほど書きました通り、1期目の期間を終えてもそのまま継続して2期目に突入するパターンが多く、変更されるのは全体の1割ほどに留まります。

管理者に管理運営を任せてうまくいっているケースですね。

日本図書館協会の見解とは異なりますが、うまくいっているのなら、その図書館にとって「指定管理者制度」の導入は成功。

業務の効率化が図れ、住民サービスの向上もでき、なおかつ経費が少なく抑えられるのであれば、それはメリットでしかありません。

施設としての目的が達成されることが大事なのです。


文部科学大臣曰く、


「懸念の数々が起こらないようにした上で、導入してもらう、というのが大事」


まさにその通り。

懸念材料がないのなら、導入し、その方向からより良いサービスと多様化する住民ニーズに応えていく。


外部がとやかく言うことではなく、それぞれの図書館が検討し出された結果が、それ、というだけのことなのだと思います(私見ですが)。

また、これも先ほどチラリと書いてしまいましたが、一度導入した後に、再び直営に戻す図書館もあるのですね。

さらには、その後、また「指定管理者」に管理運営を戻すことも。



完全に「ちなみに」ですが、私の住んでいる地域の図書館では、配達料はかかりますが図書館の本を家まで届けてくれるサービスを始めています。

ですので管理しているのは「指定管理者」ということになるのですが、以前利用していた時と比べても、特に違和感がありません。


というより、


「あれ? え? そうだったのか!」


と今気づきました……



利用者からすれば、案外「そんなもん」なのかもしれませんね。




指定管理者制度の「メリット・デメリット」をまとめる!

さて「指定管理者制度」です。

地方公共団体にとってのメリットは、


「仕事を民間企業などに代行してもらうことにより、経費の削減に加え、業務まで効率よく行うことができる」


これはわかりやすい。

つまり、管理者を公募する地方公共団体は、少なくとも外部の何らかの力を必要としている、ということになります。

もっと言ってしまえば、自力ではどうにもならない状況。
(※ 建前は、民間ならではのノウハウを活かして云々、となってはいますが)



── 指定管理者になる企業側(受託者側)のメリットって……ないじゃん……



ないこともないのです。

前述のTSUTAYAの例から(「TSUTAYAの在庫処分」といわれる前までの話です)もわかりますように、それまでとは全く違う視点から業務を行い、利用者の満足度を上げることができる。



図書館では入館料などを徴収することはできませんが、そのほかの施設には「入館料」や「利用料」があるため、利用者が増えれば、その分受託者の利益になるのです。


だから頑張る。

ただし、経営者の腕次第。


また、委託を受けるには厳しい審査があり、その後の議会での議決を得る、といった段階を踏むことになります。

指定管理者となれば、その時点で企業の信頼性が担保されたことに。

このメリットも大きいです。


そして実際に業務をこなしていくわけですが、地方公共団体、さらにはその上の省庁との連絡を密にとることになります。

行政とのパイプができる。

企業にとって、ここも利点の一つです。


社会貢献(地域に貢献)したことのある企業、といういいイメージにも繋がります。

宣伝効果もあるのですね。


また、NPO法人の場合。

受託者となっている例はそれほど多くはないのですが、そもそもが非営利団体であるため、それほど財政的な盤石さがないのが一般的。

その中で、活動をしているわけです。

NPO法人としての活動内容とリンクする施設の管理であれば、「委託金」で収入源を確保することができます。

その上でサービス向上に努める。

安定した収入を得つつ、それがやりがいにも繋ってくるのです。



ですが、何度も書いてしまいますが、


  • 民間ならではのノウハウが活かせるか
  • 今まで培ってきたスキルを公共サービスの場にマッチさせることができるか

などなど、やはり「経営者の腕次第」の部分は大きい。

実際に受託した企業が破綻しまったこともあるのです。


受託者にとって、メリットとなる部分は、一歩間違えれば簡単にデメリットに転じてしまいます。



委託する側、地方公共団体のメリット・デメリット関係も基本同じです。


多くの事業者の中から公募で選定することはメリットの一つでもあります。

が、絶対にその受託者が業務の効率化、経費の削減を成功させてくれるとは限らない。

経費は削減できても、サービス自体の質が落ちてしまうことも十分に考えられるのです。




終わりに……

──「懸念の数々が起こらないようにした上で、導入してもらう、というのが大事」(※ 前述の文科大臣の言葉)


図書館のような社会教育施設への導入については、また少し特殊なケースとなりますが、その他の施設への導入に関しても、もうこれがすべてのような気がしてきました。
(※ 企業等の場合では「導入」が「参入」に)



この制度により、地方公共団体の財政難が解消されるかどうかは、まだわかりませんが、できることなら、


「やっぱりあの時作っといて正解だったな」


となるよう、今後、懸念点・問題点なども改善されていくといいなぁ、と個人的には思っています。




── さてさて、いかがでしたでしょう。

今回いくつか挙げさせていただいた「メリット・デメリット」はあくまで表面的なもの。

施設の規模・特徴、地域や環境などなどの違いにより、様々なケースが考えられるからです。


はっきりと、


「これがメリット、こっちがデメリット」


とは書けず、何とも締まらない感じになってしまい申し訳ありません。



ですがとりあえず、



「これが『メリット』って言われていること。でも『努力・機転・スキル・知恵』なんかがないと、あっという間に『デメリット』になっちゃうかもしれないもの」



のように捉えていただけますと、うれしいです。



今回も長文に最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。


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