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    みなし残業のデメリットって、もう制度そのものは関係なくなっちゃってない……?

仕事
── さてさて、「みなし残業」です。

ネーミングからいって、何となく胡散臭さも感じてしまいますが、これ自体にはそれほど罪はありません。

正しく運用さえしていれば、会社側・社員側、どちらにもそれなりのメリットもあります。

そして「制度」だけを見ればデメリットと言えるほどのものもないのです。


ですが、世間一般のイメージとしては、


「会社が得するための制度でしょ? 働いてる側にはデメリットしかないヤツ」


のような感じではないでしょうか。


すっかり悪名高くなってしまった「みなし残業」ですが、


    本当は何のためにある制度なの?

    労働基準法に違反してるってホント?

    給与形態の欄に「みなし残業代含む」って書いてある……ブラックか? ブラックなのか……?

などなど、本来の姿とちょっと残念な現状も含めましてメリット・デメリットについて紹介いたします。

デメリットは大抵の場合、会社側も含め、この制度についてよく認識していないがために生まれてしまったものです。

知っていれば本当に防ぐことができます。


労働者側だけでなく、違反があれば会社側も「知らなかった」では済まされません。

とんでもない額の未払い残業代を支払うことになってしまう。


もうここは押さえておくしかない……


はい。
押さえていきましょう。


皆さまの「みなし残業」へのモヤモヤが少しでも薄れましたら幸いです。



「みなし残業」とは?

通常残業代とは、実際に残業した時間に合わせ毎月支払われる額が決まっていくものですが、みなし残業では、その額があらかじめ決められています。


「1か月あたり○○時間残業したものとして△万円をみなし残業代として支給(時間設定方式)」

「△万円を○○時間のみなし残業代として支給(金額設定方式)」



決められた時間よりも少ない残業時間であっても約束された「△万円」は支払われます。

逆にその時間を超えた残業を行った場合には、△万円に上乗せされて別途残業代が支払われる。


……特に問題ないような気がします。
というより、むしろ得です。


残業時間が少なくても一定の残業代は支給され、あらかじめ決められた時間を超えた分についても別途支給される。

増やされることはあっても、減らされることはありません。


ただし、ほとんどの企業では、こちらの制度を導入する際に、例えばですが、


  • 導入前: 基本給25万円

    → 導入後: 基本給21万円(30時間分のみなし残業代として4万円を支給)

    → パターン②: 基本給25万円(ただし30時間分のみなし残業代4万円を含む)

のように基本給自体を下げることが多いのですね。


特に「パターン②」では、一見基本給には変化がないようにも感じられます。


ですが、実際には今まで基本給にプラスされていた残業代が「30時間」までは支給されないことになるのです。


みなし残業の実態は残業代対策ですので、ある程度は仕方がない。


会社が頑張って残業代を捻出してくれるのはありがたいですが、そのせいでボーナスカットや基本給の減給、最悪リストラ、倒産となってしまったら残業代カットどころの話ではなくなってしまいます。


減るのはイヤですが、潰れて職を失うよりはまだマシ。


また、これまでの残業代支給のシステムですと、仕事の速い社員さんとゆっくり目な社員さんには、非常に理不尽な差がついてしまうこともあるのですね。


効率よくササっと仕事を終わらせた社員さんは、残業なしで帰れます。
ですが、ゆっくり目の社員さんは残業。


最終的にこなした仕事の分量は同じでも、効率が悪いという理由で残業代が出てしまう。

挙げた成果に関しては残業なしで帰ることのできた社員さんの方が上かもしれないのに、です。


残業代なんていらないから定時で帰れた方がいい、というのももっともなのですが、この仕組み自体はちょっとどうなのかと思ってしまいます。


── でも「みなし残業」ではこの不公平さが解消。


30時間残業したからプラス4万円なのが「ゆっくり目社員」さん。

効率よく業務をこなしたことで、残業なしに残業代に見合う4万円を受け取ることができるのが「仕事の速い社員」さんです。


会社としても残業をしていない社員さんにも残業代を支払うことになりますので、「効率良し」の社員さんの一人勝ち。


では会社のメリットはどこにあるのか。


  • 面倒な残業代の計算をしなくて済む

と言われることもありますが、実際には決められた時間を上回った残業時間となっていないか、といった確認や、上回っていた場合には清算のための処理作業を行う必要があり、それほどのメリットにはなりません。


やはり会社側のメリットは「残業代対策」になるということ。



法律では原則として「一日8時間、週40時間労働」を義務付けています。


これが「法定労働時間」。


そしてこれを超えた場合には「時間外労働」となり、時給単価を割り増しした残業代として支払うことが求められています。


ですので、支払わないわけにはいかない。
労働基準法違反になってしまいます。


ですので「みなし残業」を採用して少しでも残業代を削減しようとしているわけです。


では、このようにして実際に残業した時間と連動させた残業代ではなく、あらかじめ固定された金額で残業手当を支払うこと自体には違法性はないのか。

続いて見ていきましょう。




労働基準法では、どう扱われているの?

実はみなし残業という法令上の制度があるわけではありません。

あくまで企業ごとに任意で行っているルール。


ですが、だからといって違法というわけではないのですね。


公ではなく私的な制度ではありますが、労働基準法で定めていることを満たしている限り、運用は適法です。



みなし残業代は「定額残業代」「固定残業代」とも呼ばれます。


  • 残業したものと「みなす」→ みなし残業代
  • ひと月に支払われる残業代は「(あらかじめ決められた時間分は)定額」→ 定額残業代
  • 通常の残業代のように月ごとに変動せず「固定」されている → 固定残業代

このいずれの呼び名であっても労基法の条文内には登場してきませんが、


「適切な運用をしていること」


を前提とし、定額で残業手当を支払うこと自体は認められています。


が、問題はここ。


「適切な運用」がされてなさすぎなのです。


今後どうなっていくかは不明ですし、導入しているすべての企業が、とは言いません。

ですが半数以上どころか8割近くの企業が「適正ではない」運用の仕方をしている、というのが現状。


前述の通り「みなし残業」の制度には、確かに残業代削減のため、という労働者にとっては痛い部分もあります。

が、導入したから、ではなく、削減のための手段として選ばれたのが「みなし残業」の制度だった、です。


効率よく働けば、残業なしでも残業代が支給されることにもなりますし、賃金単価も(時給換算すれば)上がることになります。


だから、ここまではいい。

残業代が減るのは「いい」ではないですが、先ほど書きました通りボーナスやら基本給自体が減らされる、最悪倒産を考えれば「……やけ酒でも飲むか」程度の問題です。


ですが大問題なのは「不適切な運用」を目的として導入している企業も(が)多い、ということ。


そのために被るデメリットはけっこう悲惨です。


そしてこうした「悪用」の多さが、


「みなし残業」制度 = 詐欺制度


的な誤解を生んでいるのですが、


「誤解ではなく本当はそういう制度なのではないのか?」


と思えてしまうほどにボコボコとそうした実例が出てきてしまう。


試合の終わったサッカー場でごみをしっかり始末して世界中に「ワンダフル!」と言われた日本人……

災害時にも「火事場泥棒」的な悪事を働く人間の少なさで、やはり「日本人、ビューティフォー!」だったのに……

残業代を削減するため、もしくは長時間の残業を強いるために詐欺まがいの行為。


グッバイ・ワンダフル&ビューティフル……


非常に残念……ですが、みなし残業を悪用、もしくは制度についての会社側の認識不足から生まれる「デメリット」についても見ていってみましょう。




デメリットは?

      ① 「みなし残業」として決められた時間を超えて残業をしているのに残業代が出ない
      ② 「みなし残業」として決められた時間までは、残業をすることを強いられる
      ③ 同様に達していない時間分を差し引いた残業代が支給される
      ④ それどころか残業時間が決められた時間に満たない場合には、残業代が一切支払われない
      ⑤ いつの間にか会社側が「みなし残業」の制度を導入していた
      ⑥ 求人広告に記載された基本給が、実は「みなし残業」を含んだ額だった(基本給が思っていた以上に低かった)
      ⑦ みなし残業とされている時間と、その金額がいくらなのはよくわからないが、制度導入後、以前より給料が減っている
      ⑧ みなし残業代を除いた基本給が、各都道府県の定めている最低賃金よりかなり低めに設定されている

もう、メチャクチャですね。
あってはいけないことです。

みなし残業の制度は、前述の通り法令上の制度ではないためトラブルも起こりやすいのですが、そのため導入には厳しい条件が課せられています。

ですが、そのこと自体があまり周知されていない。


労働者側が知らずに、まんまと騙されてしまうケースと、企業側の認識が甘く、結果的に悪用と変わらなくなってしまうケース、どちらもありです。


上記のものは労働者サイドの被るデメリット。


が、悪用とまではならなくても、


「これではみなし残業とは認められませんよ」


とされた場合、企業側の受けるデメリットもかなりのものになってしまいます。


  • これまで「みなし残業代のつもり」で支払ってきた時間外割増賃金など(深夜・休日含む)のすべてが「払っていない」ものとされる
  • みなし残業代として、本来なら基本給に組み込まれていた分も、通常の残業代としての支払い義務が生じる
  • これに加え、さらに付加金が発生することもある

初めから悪用しようとしてバレた場合には「払ってください」と普通に思いますが、正しいと信じていた運用の条件に勘違いがあってもこれ。


これまで月々支払っていた「みなし残業代」はすべてチャラです。

制度として「無効」とされるわけですので、


「基本給21万円(30時間分のみなし残業代として4万円を支給)」


先ほどの例でいえば、この「30時間分」も通常の残業代として支払わなければならないことになります。


これまで支払ってきた4万円がなかったものになるだけでなく、これを含めた残業代をもう一度支給することに。


下手すれば潰れてしまうほどの打撃です。


でも、悪用することで単純にうまい汁を吸い続けている悪い企業も多々ある。


── では、どうすればこれらのデメリットに対抗できるのか。


これには労働基準法がみなし残業を導入するために前提としている「適正な運用」についての把握が本当に大事になってきます。


「適正でない」運用はみなし残業と認められないのです。

つまり、上記のような「デメリット」部分がある場合には、企業側の受けるペナルティも発動。


未払い金は返ってきますし、制度自体も廃止、もしくは大幅な改善が求められることになるのです。


制度を利用した人為的なデメリットについては、なくすことができるのですね。


ではその「適正な運用」とはどのようなものか。


続いて見ていってみましょう。




「適正に」運用するには?

      ① みなし残業に当たる時間と、その金額が明確にされていること
      ② 基本給など通常の労働時間に対する賃金と、みなし残業での賃金がハッキリと分けられていること
      ③ みなし残業代、または決められたみなし残業時間を超えた場合には、差額を支払うこと
      ④ みなし残業として決められた時間に満たない場合にも、固定された残業代を減額しないこと
      ⑤ 地域ごとに設定されている最低賃金を「基本給」が下回っていないこと
      ⑥ みなし残業の時間に対しての金額が、割増賃金としても最低賃金を下回っていないこと
      ⑦ みなし残業代制度(固定残業代制度)を採用することが契約内容として明示されていること
      ⑧ みなし残業制度を採用することへの合意を労働者から得ていること

    ★ 制度が「有効か無効か」を判断するために特に厳しくチェックされること


  • みなし残業の時間とその金額が「契約上明確にされている」こと
  • 超過分については、上乗せして残業代が支払われることを明示

    → 口頭で伝えるだけではダメ。

    「就業規則」「賃金規程」が、常に見ることのできる場所に置かれていない場合にも制度は「無効」とされます

これらが「前提」とされる運用するための条件です。

ですので、先ほど挙げましたデメリットを平気で従業員の皆さまに押し付けている会社は、本当にブラック。

もしくは、そういうものと経営サイドが信じ込んでいるのかもしれませんが、そのこと自体アウトです。


また、ちょっと毛色の違う、

      ⑤ 地域ごとに設定されている最低賃金を「基本給」下回っていないこと
      ⑥ みなし残業の時間に対してその金額が、割増賃金としても最低賃金を下回っていないこと
についてですが、例えば東京ですと2018年現在での最低賃金は「958円」。

これは時給ですが、基本給を時給換算した金額が「958円以下」に設定されていた場合には制度自体が無効です。


ひと月に支給されるのは「みなし残業代分」も含めての額ですが、基本給自体はその分減額されていることになります。

最低賃金を下回ってはいけないのは、あくまで「基本給」部分。

みなし残業代を含まない金額となります。


あらかじめ「30時間」と決めるよりも「40時間」のように長い時間をみなし残業に当たる時間とした方が企業としても残業代削減にはなる。

ですが、やりすぎると最低賃金を下回ることになりそもそも制度自体が「無効」となってしまうのです。


みなし残業時間とその残業代についても同じ。


法定労働時間外となりますので、みなし残業代は割増賃金で計算されます。


  • 法定労働時間を上回る「時間外労働」: 通常の労働時間帯の25%の増額率
  • 夜10時から翌5時までの「深夜労働」: 50%
  • 休日に仕事をする「休日労働」: 25%

それぞれに決められた増額率があるのですが、先ほどの例「基本給21万円(30時間分のみなし残業代として4万円を支給)」の場合、


「958円 × 1.25(25%)=1197.5円」


これが、1時間あたりに支払われる「時間外割増賃金」です。

この30時間分なので、


「1197.5円(時間外割増賃金) × 30時間分 = 35,925円」


これを上回っている「4万円」をみなし残業代としているのでセーフ。


……面倒くさいのです。


さらに、ここに増額率の変わってくる「深夜労働」が加わった月などは、「35,927円の壁」を超えていないかを確認、清算のための処理作業もプラスです。


先ほども書きましたが、よく聞く会社側のメリット、


  • 面倒な残業代の計算をしなくて済む

── 撃沈。


しかも、ここを怠ると先ほど挙げた会社へのペナルティ、


「支払ってきたみなし残業代まで、なかったことにされ追加で通常の残業代としての支払い義務、最悪付加金も発生」


なのです。


また、


      ⑧ みなし残業制度を採用することへの合意を労働者から得ていること
これも大事です。


前述の通り、これまでの基本給の中にみなし残業代を含ませることで、支給額は変えずに、その賃金に対する制度を変更しているわけですが、これは労働者にとっては損です。


ですのでこうした労働条件が不利益となる変更には従業員の同意が不可欠とされているのですね。


しっかりとした運用をしている企業などの場合には、こうしたことも含め従業員との話し合いをしていく、もしくは基本給に上乗せの形でみなし残業代が支給されることになるかと思います。

上乗せの場合には労働者に不利益は生じていませんので(利益が発生しています)同意は不要。

(※ ただし、上乗せされるケースはほとんどないかと思われます)


が、悪用を目論んでいる場合には、



    「賃金総額は変わらないから」

    「みんなサインしてくれた」

    「制度が変わったから」

などなど、同意を得るための常套句がまことしやかに囁かれます。


その後、



    「残業代はみなし残業代としてすでに支払い済みだ」

    「これは残業とは認められない」

    「みなし残業で決められた時間分はちゃんと残業してもらわないと」

などなどに続く……

またはこれ以上にひどいのが、導入している企業の8割近く……


だんだんと「みなし残業」の制度自体が悪者に思えてきてしまいました。


残業代の削減は企業の存続にとって、確かに必要な場合も多いのです。

が、こうなってきますと単に制度への認知度の低さを逆手に取った詐欺ですね。



さて、みなし残業にもの凄く語感の似ている制度に「みなし労働時間制」というものがあります。


こちらは企業内で独自に作られた制度ではなく、法律上の制度なのですが、名称が非常に似通っていることから、ごっちゃにされてしまうことも。


「みなし残業ではいくら働いても追加で残業代が出ない」


との誤解を招いてしまっている要因ともなっています。


長時間

 ■「みなし労働時間制」とは?

「みなし」繋がり、ということで、こちらの制度についても簡単にご紹介です。


実際にはみなし残業とみなし労働制は全くの別物。

似ているのは名称だけなのですが、混同して覚えてしまいますと残業代の支払われる仕組みがますますややこしいことになってしまいます。


ごく簡単にまとめてしまいますと「みなし労働時間制」とは、


  • 営業など、一日中社外で過ごす社員について「○○時間労働したものとする」

    → 会社がその時間を正確に把握することは不可能だから

    → 事業所外労働制

  • 自然科学の研究者やデザイナー、テレビディレクターや弁護士、ゲームソフトの創作者、その他諸々、集中的に忙しく、ある時期を過ぎると急激に仕事が落ち着くような職種の方たちについても同様に「働いたとみなす時間をあらかじめ決めておく」

    → 会社からの指示ではなく、彼らのペース仕事をしてもらった方が効率がいいから

    → 裁量労働制

同じ「みなし」でも、上記のように限られた職種にしか適用できない制度です。


また、みなし労働時間を「8時間」(もしくはそれ以下)に設定していた場合、実際の労働時間がそれを上回ったとしても関係なし。


4時間しか働かなくても「8時間労働扱い」。

その代わり10時間働いても、12時間働いても「8時間労働扱い」。


「残業」とはなりません。
だから「残業代」もなし。


自然科学者などだとわかりやすいですね。


労働者である限り、一日8時間、週40時間労働を超えたものに関しては「時間外労働時間」となることに変わりはないのですが、時間に合わせて実験の結果が出るわけではありません。


長時間の観察等も必要となってきますが、8時間を超えたものすべてに残業代を支給するというのもムリ。

(※ 設定されているみなし労働時間が法定労働時間を超えた「9時間」などであれば8時間を超えた分に関しての残業代は支給されることになります。

また、みなし残業代は決められた時間までは休日・深夜の割増賃金の支払いの必要はありませが、みなし労働時間制では、支給されることになっています)


ですので、労働時間と「みなす」時間をあらかじめ設定、です。


確かに「労働」と「残業」の違いはあるものの、似ているのです。


そしてそこをちゃっかり利用し、



「うちは裁量労働制だから」



と「みなし残業代」についても同様に、



「残業代はすでに支払い済み。追加はなし」



としてしまうケースも多い。


そもそもみなし労働時間制はどの企業でも採用できる制度ではありません。

でも似てる。

そしてどちらも、皆が熟知しているわけではないのです。


だから「そうなのか……」と諦めつつ、納得してしまうのですね。


ですが、みなし労働時間制(特に「裁量労働制」が混同されて使われやすいです)とみなし残業の制度は関係なし。

みなし残業制度では、法定労働時間を超えた分に関しては、企業には追加での残業代を支払う義務があるのです。


裁量労働制を振りかざされた場合も含め、上記の「デメリット」部分はすべて違法です(民法・労基法)。



求人の際の数々の問題もあり、若者雇用促進法の改正時に、


  • 月給25万円(4万円のみなし残業代含む)
  • 月給25万円(30時間分のみなし残業代を含む)
などの曖昧な表現をせず、


  • みなし残業に当たる時間
  • その金額
  • みなし残業分を除いた基本給の額
  • 超過分については追加で支払うこと

などを明示するように、との規定もできました。


ここは、少しだけ改善です。


また、みなし残業とする時間に上限は特別に設けられているわけではないのですが、そもそも残業代が通常よりも割り増された賃金になるのは、


「企業としても通常よりも多くの賃金を支払うのはイヤだろうから、割増賃金とすれば長時間労働も減らせるのではないか?」


といった法的な理由があるからなのです。


さらには時間外労働をしてもらう際には労働者と使用者(会社)との間で「36(サブロク)協定」という約束を交わす必要もあるのですね。


通常の労働であれば、そのリミットが「45時間」。


この2つを併せて考えますと、45時間以上のみなし残業時間は、



    「通常の労働での時間外労働時間の上限を超えた設定をしているということは、過剰な残業が前提されているに違いない(けしからん)!」

とされ、制度自体が適正なものではないとして認められない場合もあります。



「45時間」は絶対のラインではないのですが、設定されている時間も重要なポイントとなってきます。


普通に考えましても、残業自体がそれほど多くない会社の場合、みなし残業の制度を採り入れる必要がない。

削減すべき残業代が発生していないからです。


また、月に10時間程度の残業時間、という会社が「みなし残業時間30時間分として4万円を含む」とすることもまずありえません。


何のために10時間分支払えばいい残業代をあえて30時間分に増やすのか、意味がないからですね。


ですので、先ほど「メリット」として挙げさせていただいた、


「決められた時間よりも少ない残業時間であっても約束された『△万円』は支払われる」


これは実際にはほとんど得ることのできない(であろう)メリット、となってしまっています。



……段々と説得力がなくなってきている気がしてきましたが、「みなし残業」は制度としては、特に問題はありません。

実際の残業時間に合わせ、毎月変動する残業代の清算をしなければならなかった部分が定額にすることで楽になる、といった会社側のメリットはそれほどでもないのですが、残業代削減には一役買っています。


労働者側からすれば歓迎できることではありませんが、給与やボーナスが減らされたり、倒産してしまうよりはずいぶんとマシ。


ですが、こうしたまだ何とか納得できる理由からではなく、


「企業の私腹を肥やす」


的目的で導入しているケースが多すぎるのがみなし残業の最たるデメリット。


……みなし残業……


現状を知れば知るほど、黒くなっていきます。


では最後に、ほんの数行でまとめられてしまいそうなメリット・デメリットについてのおさらいにいってみましょう。




みなし残業の「メリット・デメリット」をまとめる!

    みなし残業のメリット

  • 適正に運用されていれば

    → 残業時間が少ない月も、安定した残業代が支給される

    → 企業側も多少は「残業代」に関わる煩雑な処理が軽減

  • ➡ 賃金総額を変えずに賃金制度を変えることにより残業代の削減が望める



  • 適正に運用されていない場合には(悪用を目論んでいる側目線)

    ➡ 違法性がバレるまで、良いように従業員を使える


  • デメリット

  • 悪用目的、もしくは企業側の制度への認識不足により、支払われるべき残業代が支払われない
  • 長時間労働を強いるための手段として利用されることが多い
  • みなし残業が制度として適正でないと判断された場合には、衝撃的な額の経済的負担が企業に降りかかる



終わりに……

「制度としては特に問題はない」と再三書いてきましたが、制度を利用する側に甚大な問題があれば、


「制度としても問題あり」


にもなってしまいます。


みなし残業の制度は、いわゆるブラック企業に利用されやすい制度であることは確かです。


ですが、8割近くの導入企業がこれに近いとはいえ、残りの2割の適正に運用している企業のことを考えますと、一概に、


「みなし残業を採用しているところには就職しない方がいい」


とは言いにくいです。


── 言いにくいのですが、現実問題としては「しない方が無難」。


残業代削減のため、泣く泣く社員の皆さまに「みなし残業」を受け入れてもらっている善意の経営者の方も「2割くらい」と少ないですが、頑張っていてくれています。

……なんと言いますか、ムカつきますね。悪い人には。




今回もダラダラと書いてしまいました。

腹の立つ「悪い人」対策のためにも、みなし残業について違反を見つけたら労基や弁護士さんに相談してしまいましょう。


労働基準法とは働く方々の労働環境を守るためにつくられた最低ラインです。


そして正義は勝たないとダメなのです。



── さてさて、みなし残業についてのモヤモヤは、多少なりとも薄れましたでしょうか。

皆さまの毎日のお仕事が理不尽なことに侵されませんよう、併せて願っております。



最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。


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